昔よく見た眺め
お盆で田舎の島に帰った。
旧正月は比較的
よく島へ帰っているのだが
真夏の実家に帰るのは久しぶり。
久高島に流れる時間は
相変わらず磯の匂いがする。
実家の庭(実際は幅50㌢ほどの通路だが)
にはわずかな砂地のスペースがある。
子供の頃
浜で掘り起こした亀の卵を
この砂地に埋めたことがある。
結局、
夏の暑さで卵は腐り
小亀は産まれず
代わりに
強烈な悪臭が発生した。
祖母は私の悪行に怒りをあらわにしたが
祖父が大笑いしてその場をしのいだ。
縁側の上には
竹で作った竿を横に並べる支えがある。
今はもう竿も何もなくなってしまったが
昔はそこに釣り道具一式を並べて
翌日の釣りに備えた。
5,6本ある竿のうち
小柄な私の身体に合った竿があって
私はその竿を一番上に置かないと
漁に影響する気がして
祖父に物言いをつけて
並べなおした。
四畳半二間の畳間には
テレビがある。
なぜか巨人の江川が投げていた画面を
鮮明に覚えている。
ナイター中継をよく見たが
ゲームが終わるまで
テレビを見続けることが出来ず
だいたい8時過ぎには
その場で寝てしまう。
だから
7時半には布団を敷いて
寝転がってテレビを観た。
今でこそクーラーが付いているが
当時はそんなものはなく
戸を全開にして寝た。
網戸もないので
煙たいぐらい蚊取り線香をたいた。
軽自動車一台しか通れない
向かいの道には、
殺虫剤を撒く軽トラが行き来した。
虫に刺されることよりも
大人になって
野球選手と船乗りの
どちらにもなれなかったら
と想像する事が異様に嫌だった。
一度にいろいろなことを思い出した。
30年前の私は
今の私を見て何を思うだろうか。
昔よく見た眺めを前に
もう一度立ち上がろうと決めた。